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健康リスク管理、職場衛生ポリシー、安全な労働条件と労働環境についてアドバイスを提供いたします。当事務所の労働法チームは、安全な職場環境構築のためのアドバイスをいたします。

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労働法

オーストラリアにおける労働法 — カジュアル従業員の権利

Q:5年ほど前に“カジュアル従業員”として雇われ、月~金、9~17時の出勤で、法律上の最低賃金に25%のカジュアル手当を加えた給料が支払われています。この間、友達から「それって実質的に はパーマネント(フルタイム)従業員なんだから、有給休暇とかの権利があるんじゃない?」という指摘を受けました。私には実質的なフルタイム従業員として、そのような権利があるのでしょうか?     A:正確なアドバイスをするためには事実関係を詳しく分析する必要がありますが、原則的に、カジュアル従業員としての雇用契約書を提示され、合意し、基本時給に25%増しのカジュアル手当が支払われているのであれば、フルタイム従業員と同じ勤務時間で働いていたとしても、それはカジュアル雇用だと考えられます。 しかし、だからといってフルタイム従業員の持つ権利をカジュアル従業員は全く持たないというわけではありません。例えば、カジュアル従業員はAnnual LeaveやPersonal Leaveの取得権利こそ有しないものの、Long Service Leaveの取得権利は発生する可能性があります。 また、そのカジュアル雇用が「定期的かつ体系的なものであり、継続的な雇用が妥当に期待できるもの(Regular and systematic basis with reasonable expectation of continuing employment)」である場合には、不当解雇の訴えを起こす権利や、Flexible Work Arrangementを求める権利も生じえます。 現実問題として、今回の相談者のように、カジュアルで長期間に渡りフルタイム従業員のような勤務時間で働いている場合、上記のような権利が生じるかは事実関係に委ねられ、明確にはなっていません。こうした問題を回避すべく、近年、法律の改正があり、多くのカジュアル雇用において( “Small Business” 等の例外もありますが)、定期的に継続するカジュアル雇用が開始してから12か月が経過した従業員に対して、雇用主は、フルタイムまたはパートタイム(パーマネント)雇用への変更をオファーする義務を負うことになりました。あくまでオファーなのであって、従業員として「私はカジュアル雇用を継続したい」というのであれば、断っても問題ありません。この法改正により、少なくとも1年目において、雇用ステータスを明確にし、後に「私は実質的にフルタイム従業員なのでは?」という問題が起きるリスクを軽減させています。   また、今回の相談者のような従業員は、最初の12か月目のパーマネント雇用オファーのタイミングの後であっても、雇用主に対してパーマネント雇用化を求める権利が生じる場合があります。雇用ステータスとその権利を明確にするためにも、まずは雇用主と相談することをお勧めします。


労働法

従業員による精神的不調を理由とした病欠

Q:日頃とてもまじめに忙しく仕事をしている従業員が、今日の昼頃無断で帰宅してしまいました。この従業員は「ストレスでこれ以上働けないので帰宅する。後で医師の診断書を提出する」と同僚に言い残して帰ったそうです。自己の判断でストレス休暇を取って帰宅するのは合法なのでしょうか。 A:ストレス休暇(Stress Leave)という言葉はたまに聞きますが、これは法律上、Sick Leave・Personal Leave(以下「Sick Leave」)の一種と考えられますので、原則的な対応は他のSick Leaveと同様です。精神的不調は、その問題が第三者には分かりにくいため、判断が難しい側面があるものの、本人が「精神的ストレスで仕事が出来ないので今日は早退します」と主張する場合には、雇用主としてそれを拒否する事は出来ません。なぜなら、本人が本当に精神的不調を患っているか否かは医師にしか判断出来ない事だからです。Workplace Health and Safety Lawという法律により、雇用主は、職場において怪我などの物理的なInjuryだけでなく、精神的Injuryも未然に防ぐよう努める義務を負っています。従い、精神的不調を訴えている従業員の早退を妨げるようなことは、Workplace Health and Safety Law違反となるリスクを負う事になります。 雇用主は、医師の診断書等の「Unfit for Work」の証明書の提出を後日求めることはできます。無論、医師が「Unfit for Work」と判断しなかった場合には、これはSick Leaveとは認められなくなりますが、「仕事のストレスで最近ずっと不眠が続き、心身ともに疲れている」等の理由を掲げれば、おそらくGPは証明書を出すだろうと思います。もし、精神的不調が、仕事からくるストレスを原因としている場合には、その従業員は労災を申請する可能性もあります。 精神的不調は一見してわかりにくいため、後日その従業員が職場復帰したとしても、雇用主として「本当に仕事を再開できるのか、また、その精神的不調の原因は何であったか」等を確認する必要があります。場合によっては、専門家(例えばサイコロジスト等)の診察を受けてもらい、仕事を継続するのは問題ないという証明書の提出を求める事も出来ます。従業員が精神的不調でSick Leaveを取るという事は、会社にとっても従業員にとっても、非常に深刻な問題であり、慎重な対応が必要であるという事です。その原因が労働環境にあるような場合には、雇用主としてそれらを妥当な限り改善する義務を負います。そうする事により、従業員にもその深刻さを理解させ、「精神的不調」を理由とする安易なSick Leave取得を抑制する事にもつながります。


労働法

ワクチン接種に関する疾病休暇の適用 

Q:COVID-19のワクチン接種をする予定です。あいにく平日しか予約が取れず、勤務時間に影響が出てしまいます。また、接種後仕事ができなくなるほどの副反応が出た人もまわりにいて心配です。ワクチン接種をするにあたり、Sick Leaveの取得は可能なのでしょうか?   A: Sick Leave(疾病休暇)は正確にはPersonal Leaveという有給休暇の一部です。本人の疾病及び近親者の看病などのために法律により年10日間(フルタイム雇用の場合)の有給Personal Leaveが認められています。未消化のPersonal Leaveは翌年に繰り越されます。 自分自身の病気や怪我により、就労不能(Not fit for work)となった場合に、Personal Leaveの取得が認められます。法律上、雇用主は疾病休暇を取った従業員に対し、“Not fit for work”の証明として、医師の診断書等の提出を求めることが出来ます。 ちなみに、法律は病気や怪我の原因には言及していませんので、極論すると飲みすぎでひどい二日酔いになった場合でも、就労不能であれば、Personal Leaveは取得できます。(医師の診断書は必要になるかもしれません。) ワクチン接種のためにPersonal Leaveを取得できるか?との問いについては、ワクチン接種時点でその従業員は「Not fit for work」にあたらないので、原則的に「できない」と考えます。しかしながら、昨今、ワクチン接種は広く奨励されていますので、勤務時間内のワクチン接種による遅刻・外出についての寛大な措置につき、会社と相談すると良いと思います。もし会社がPersonal Leaveを認めなければ、代わりにAnnual Leave等を使うといった対応が必要になるかもしれません。もし、会社がワクチン接種を義務付ている場合は、勤務時間内のワクチン接種は業務の一環であると考えられ、Leaveの取得は必要ありません。 ワクチン接種後、もし「Not fit for work」となるほどにひどい副反応が出れば、問題なくPersonal Leaveを取得することが出来ます。言うまでもなく、副反応で会社を休まなければならなくなった場合、Personal LeaveもAnnual Leaveも残っていなければ、Leave without pay(無給休暇)になります。しかし会社によりワクチン接種が義務づけられている場合は、副反応により会社を2、3日休んだとしても、自身のPersonal Leaveを使う必要はないという考えが十分成り立つと思います。 また、会社がワクチン接種を義務付けているのではなく、単に奨励している場合は、接種日に出勤時間を遅らせる・ワクチン接種のための外出・早退等に関する扱い及び、接種後の副反応によるPersonal Leave取得に関し事前に会社と話し合っておくと良いと思います。


労働法

従業員の過労・労災

Q: 主人は現地の大手日系企業でシニアマネージャーをしています。この数か月間、週のうち4日間は夜10時頃まで残業させられ、精神的に相当参っているようです。食欲もなく夜もなかなか寝付かれずにいます。ここ数日、家にいる時にはとても無口でぼうっとしている事が多くなりました。今朝、「仕事を休んで医者に行ったらどう?」と勧めてみたところ、大声でヒステリックに「忙しいのにそんなことできるわけがないだろう!」と怒鳴られました。主人のことが心配です。こんな場合、誰に相談すれば良いでしょうか?   A: 私は医者ではありませんが、おそらくご主人は過労のため鬱状態にあるように思われます。大手企業の場合にはHR(Human Resources)の担当者がいるはずです。まずはその担当者に相談するのが良いのですが、とかくご主人のようなエリート社員の場合、特に日系企業においては、精神的な不調を公にするのがはばかれる風潮があるようですから、そう簡単にはいかないかもしれません。しかし取り返しのつかない事態になる恐れもあるので、迅速な対応は必要だとおもいます。まずはご本人に「今の自分は正常ではない」という自覚をもたせ医者の診断を仰ぐのが重要かもしれません。 また、ご主人の会社のCompany Policy(会社の方針)の中に必ずこのような状況の対応の仕方が書かれているはずですので、一読すると良いと思います。会社のHRはこのようなケースに慎重に対応するようトレーニングもされているはずです。 また、今のご主人の状態が過労によるものであると明確に診断されれば、法的にも色々な対応が可能となって来ます。雇用者は基本的に法律により職場の安全を確保する義務を負っています。例えば、過酷な残業をさせ続けた結果、従業員が鬱病を発症し労災の認定を受けるような事態になってしまうと、通常SafeWork NSWの調査が入り、告発され多額の罰金刑に処せられる場合があります。以前日本の大手広告代理店であったような、従業員が過労により自殺するような事態がNSWで起きた場合、責任者の禁固刑も十分考えられます。雇用者は、職場の安全を維持確保するために充分な対策を講じる義務を負っています。なお、会社は労働災害を被った従業員を差別したり、解雇することは法律によって禁じられています。 被雇用者も同じく職場において自分自身の健康と安全を維持する義務を負っていますので、問題が生じた場合、会社のCompany Policyに従ってHR等へのタイムリーな相談は欠かせません。  


労働法

オーストラリアの労働安全衛生法 ― 従業員の過労状態

Q:最近、カジュアル従業員の一人が自主的にシフトを多く入れて働いているのですが、過労状態になっているように思います。どのように対処したらよいでしょうか?   A:従業員の過労問題は、労働衛生安全上の問題として、NSW州ではWorkplace Health and Safety Act 2011(略して「WHS」)により、雇用主に然るべく対応する義務が定められています。尚、同法によりその労働安全衛生管理義務は、雇用者だけでなく、その職場で働く全ての者に課されています。 労働安全衛生管理義務は要約すると、「仕事に携わる者は、その職場で仕事に関連する者の健康と安全を守るべく妥当な注意払わなければならない」ということです。 雇用者側の会社役員やマネージャー等は、上記に加え、WHS管理者としての個人的な責任をも負わされる場合があります。雇用者側はその義務として、過労防止及び対応のための就業規則及びポリシーを設けなければなりません。具体的には、従業員らが過労状態に陥らないよう適切にモニターし、過労が疑われるような状況が生じた場合には、就業規則及びポリシーに基づいた対応を取る必要があります。 過労の問題は、当人の心身の問題だけではなく、他者に被害を及ぼすこともありえます。(例:過労状態で車両の運転や機械の操作をした際の事故等)従い、過労問題は個人だけでなく職場全体として対処されなければならない深刻な問題だとして重要視されています。 万が一従業員が過労により病気や怪我等を負った場合、又は内部告発等があった場合、通常WHSの行政機関であるSafe Work NSWが調査に入ります。調査の結果次第では是正勧告、罰金などの命令が出されることがあります。もしもWHS管理の不備が原因で従業員が過労のため入院、死亡等のような重大な結果が生じてしまった場合、雇用者側に対し多額な罰金に加え、管理者が刑事責任を問われる事も考えられます。 一般的なWHSの問題、例えば危険物の管理や、重量物の扱い、アスベストの処理等と異なり、過労問題は必ずしも職場の環境だけが原因で発生するとは限りません。勤務時間外の従業員の行動(例:副業や、家事・育児)によってもリスクが上昇するので、雇用者として完全な管理をするのが難しい面があるのも事実です。しかし法律上、そうした事柄も含め、雇用者は妥当な範囲で従業員の健康を管理する義務を負わされています。  


労働法

オーストラリアにおける新型コロナ規制 ― 在宅勤務

Q: 私はシドニーの日系企業で会計事務を担当しています。昨日上司より、コロナウイルス対策として、今日から自宅でテレワークにするよう命じられました。自宅は狭く、同居人もいることから、できれば出社したいと思っています。会社は私にテレワークを強制する権利はあるんでしょうか?   A: コロナウイルスの感染拡大が懸念されている現状、会社(雇用者)にはあなたにテレワークさせる権限を有します。その一番の根拠は雇用者は全従業員の健康と、職場での安全を守る法律上の義務を負っているからです。今回の場合には、雇用者はその義務を果たすためにあなたをテレワークにさせるだけの、十分な根拠があると考えます。また、雇用者として従業員に対し、不必要なミーティングを避けたり、緊急度の低い仕事の延期を指示することも可能です。もし、テレワーク等が出来ないような職種で、その営業活動自体が、政府の法令により禁じられていなければ、出勤することも可能です。ただしその場合には政府の公布した3月26日の法令により、人と人との間隔を4メートル平米空ける必要があります。もし、従業員の家族の一員がコロナウイルスに感染してしまった場合、会社はその従業員の出社を拒むことが出来ます。その場合、家族の看病が必要であれば、Carer’s leaveを取得することが出来ます。 雇用者は、従業員のコロナウイルス感染が妥当に疑われるような状況であれば、その従業員に職場に来ないよう命ずることも出来ます。その場合の給料については、雇用者、従業員とがよく話し合い、Sick leave、Annual leave、Long service leaveなどの活用を考慮するのが一般的です。場合によっては、無給となる可能性もあります。 万一、コロナウイルスにより多数の従業員が感染してしまい、一時的に会社の事業継続が不可能になってしまったような場合には、「Stand-down」といって、会社の事業を一時停止し、従業員に無給休暇を申し渡すことも可能です。(注:Enterprise Agreementや、各雇用契約書において、別途Stand-downについて、定められていることもあります。)最近では、政府のコロナウイルス感染拡大防止対策の影響を受け、Qantasが2万人の従業員を「Stood-down」しました。一般的には、コロナウイルスの影響で売り上げが落ちたという理由だけでは、従業員をStand-downすることは出来ませんが、感染拡大防止のための政府の方針により、著しくビジネスが制限されるような場合においてはStand-downは可能と考えます。